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「着付けを人に教える」ということを始めるまで、当たり前のことだが、私は自分が習った方法でしか名古屋帯や袋帯を結んでこなかった。しかし、着付け教室には「過去に着付けを習ったことがあるが、忘れてしまった」という生徒さんが結構な割合で訪れる。その生徒さんたちに私の帯の結び方をお伝えすると、「私が習ったのと全然違う」「youtubeで見た方法の方が簡単そう」と言われることもしばしばある。
それらの意見は講師を始めたばかりの私にとって、目から鱗だった。なぜなら私はこの方法が一番合理的で簡単なのだと教えられていたからだ。それから、慌ててさまざまな帯の結び方を調べに調べた。そして、帯の結び方は本当に千差万別でそれぞれにメリット・デメリットが存在し、「これが一番ベストな帯の結び方なのだ」という判断は、人に依るのだという結論に至った。例えば「余計な道具を使いたくない」という人と、「背中に手を回すのが辛い」という人では、望む結び方はまったく違う。また、長い帯なのか短い帯なのかによっても適切な結び方は変わってくる。
研究に研究を重ね「余計な道具を使わずかつ手も楽で、どんな長さの帯でも大丈夫」という結び方を発明できる可能性もゼロではない。しかし、私はその研究に時間を費やすよりも目の前の生徒さんの思いを聞き、自分の行ってきた結び方に固執することなく、それぞれにベストな方法を取り入れていくようにしている。それを繰り返しているうちに、もしかしたら、「余計な道具を使わずかつ手も楽で、どんな長さの帯でも大丈夫」な結び方が降って湧いてくるかもしれないし、こないかもしれない。

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